< 第 6 章 >
好之者不如楽之者
   
 

 10月末(※2006年)、三重県支部の合宿研修会に向かう朝、思いがけないリンゴの便りが届きました。話はその数か月前の6月末にさかのぼります。この時期は、師家の法要や中国での友好交流会など大きな行事が重なって目が回るほど忙しかったのですが、秋田県支部のお招きで総会・特別講習会に参加いたしました。
  ご当地の豊かな自然の中で同好の皆さんとゆったりしたひとときを過ごし、ほっと一息ついたことを憶えています。秋田県支部はまだ2年目の若い支部ですが、近隣県からの参加者も含め、200名近い方が集まる賑わいぶりでした。りんご
  その中にリンゴ農家の方がいて、「先生が忘れた頃にリンゴが届きますよ。お楽しみに」と懇親会の席で約束されたことを思い出しました。 リンゴといっしょに届いたお便りには、冬は豪雪のために枝が折れたり、春にやっと出た芽をカモシカや野兎にかじられたり、秋には収穫直前の実を熊にごっそり食べられたりと、収穫までの折々の話が写真とともに紹介されていました。いつもは何気なく食べているリンゴですが、作る方は大変なご苦労をされていることがわかりました。でもその行間からは、リンゴの木をまるで自分の同志のようにいたわり、いっしょにおいしい実を育てようという思いがにじみ出してきます。苦労の中に楽しみがあるといった感じです。また、この方は仕事の合間の趣味やボランティア活動もいろいろされていて、週1回の太極拳教室も楽しみのひとつとのことでした。

 「楽しみ」と言えば、今年の秋祭りに近所の神社でひいたおみくじに、「これを知る者はこれを好む者に如かずこれを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という『論語』の言葉が出ていてびっくりしました。それは、皆さんもご存知のように師家がよく引用していた言葉であり、私もまたいつも心に刻み、各支部や教室でお話しをするたびに皆さんに伝えてきたものだからです。
  師家はこう言っています。 「その知識がいかにあっても、好む人には及びません。非常に太極拳が好きでも、太極拳を楽しんでいる人に比べればやはり及ばないことです。楽しむことは飽きがきません。楽しむことは、そのことをより深く学ぼうとする心を生みます。上手か下手かを誰かと比べることもいりません。楽しんで太極拳をやっていると心が落ち着きます。体も柔らかく軽くなり、稽古の後の気持ちは言葉で表せないほど清々しく、心身ともに楽しくなります。楽しむ者が一番長く続きます。そして深く味わうことができるのです。」

  今では私たちの協会も、全国32都道府県に支部を構えるまでになりました。(※2007年1月現在。)その中には、同好会時代も含めると30年以上の歴史を誇る支部も多くあります。
  また、今年(※2006年)訪問した秋田、岩手、新潟、石川などのように東北や北陸には新しい支部が多いのですが、こうして師家亡き後もますます隆盛となっていくのは、やはりその志が多くの方に受け入れられている結果だと思います。 師家が40数年前に志を立て、揺るがない信念で続けてきた太極拳の世界がこうして全国各地で花開き、今も新しい支部が誕生しているのは、何にもまして楽しむ心を大切にしてきたからだと考えています。もちろんそこには、師家の教えに共鳴した方々の大きな力がありました。
  各地の支部の役員として、また師範として、それぞれの地域に楊名時太極拳の種を蒔き、営々と育ててこられた方々の努力の成果です。そして、その成長の養分となったのが会員の皆さん一人ひとりの太極拳を楽しむ心ではなかったでしょうか。 私も各地を回りながら多くの同好の方々とお会いし、旧交を温め、新しいご縁をいただくことが楽しみのひとつで、しみじみと太極拳をつづけてきて良かったと思えるのです。

 さて、これを書いているのは12月ですが、この号が出るときは年が明けていますね。また1年、いっしょに太極拳を楽しんでいきましょう。
新年好!

 

 

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