< 第 5 章 >
「心も体もまあ〜るく、柔らか〜く」
   
 

 4月から本部道場で始まった私の特別研修講座の第一期が9月25日(※『太極』掲載時2006年)に終わりました。 受講生は各地で指導者として活躍されている師範・準師範の皆さんです。いずれも10年、20年と稽古に励まれ、師家から直接習われたこともある方々の前に立つと、いつも心地よい緊張感を覚え、自分自身の太極拳もさらに上達したような気がします。続いて第二期がはじまりました。

 よく師家は、立禅やスワイショウを行いながら「心も体もまあ〜るく、柔らかあ〜く」と、ゆったりとした独特の口調で指導していました。きっと皆さんのご記憶にもあるのではないでしょうか。極を作らず円を描くように、ゆっくりと淀むことなく流れるようにという太極拳の真髄を、こんなやさしい言葉で表わしていたのだと思います。私も自分の講座や教室のときに、この言葉を思い浮かべながら指導しています。

流水 師家はまた、「流水不争先」とか「流水不腐」という言葉を好んで使っておりました。流れる水は、われ先を争 うのではなく、ともに一つの大きな流れを形作っていく。流れる水は、活力にあふれいつまでも腐ることがない。

 私自身、若い頃はその意味を深く理解できませんでしたが、師家が太極拳を通じて何を目指そうとしていたのか、歳を重ねたこのごろになりようやく分かってきました。師家が目指したのは、単なる武術としてではなく、あるいは単なる健康法としてではなく、すべての人がその人らしく仲間と幸せを分かち合いながら生きるための術(すべ) としての太極拳。それはまた、師家の人生哲学そのものでもありました。

 私たちの太極拳では、初伝から師範まで六段階の階位があります。それぞれの階位ごとに一定の年数を経てから審査を受けられることになっており、師範は最低でも10年かかります。これは、太極拳の型や流れといった技術的なものに習熟するために必要な時間であるとともに、師家が目指した精神的なものを理解するために必要な時間でもあると考えています。他の武術や競技の段位のように技術の優劣を競った結果としての格づけではありません。 皆さん一人一人が歩んできた太極拳の道しるべと考えればよいと思います。

 私は、師家の精神的な面については日々の暮らしの中からも多くのものを受け継ぐことができたと感じております。そうした師家の信念や理想を私たちの太極拳に力強く根づかせ、次の世代へと引き継いで行くことが、私に与えられた大事な役割だと考えています。

 ところで、父は友人や知己に恵まれた人であり、内外の著名な方々との親交もありました。強い信念を持ちながらも、飾らず、おごらず、やさしい性格がたくさんの人を惹きつけたのでしょうか。そうした方々との交流で贈られた数々の文物が遺品として残されました。

 たとえば、稽古用のTシャツでおなじみの「流水不争先」の文字も帥立志先生から贈られた書をプリントしたものです。また、数十年間にわたって父が収集してきた書や彫刻、絵画などの美術品も多数残されました。太極拳の武術的な面や医学的な面のみならず、哲学や芸術としての太極拳、総合的な文化としての太極拳でありたいと願っていた父の理念が、これらの貴重な芸術品を呼び寄せたものと思います。

美術展示室HPはこちらから これらは、私たち遺族が個人的に受け継ぐより皆さんと共有すべきものと思い、このたび本部の展示室用に寄贈い たしました。現在、展示室の整理作業が行われていますが、この号が出る頃には、これらの歴史的にも美術品としても価値の高い品々が展示されていることでしょう。本部にお立ち寄りの際にはぜひご覧いただき、父の太極拳に寄せた心を感じていただけたらと思います。     謝謝。

 

 

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